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貴志祐介『新世界より』

新世界より(上) (講談社文庫)「上巻は世界観の説明ばっかでぜんぜん話進まないじゃない。いつおもしろくなるのよ!」とぶつくさ言いつつがんばって読み続けた上巻。そして助走をつけはじめた中巻に一気に疾走する下巻。とくに下巻は息もつかせぬ怒涛の展開さ!

しかし終わってみれば上巻がいちばん楽しかったかもしれない。中巻あたりの意味深な展開を受けて主人公がディストピア世界でどう生きていくかを描いていくのかと思いきやそんなことはなく、人類VS異人の争いで収束しちゃってもったいないなあ。これはSF得意な方が読むと肩透かしな予感がする。SF専門家よりもむしろ貴志ワールド好きやサスペンス好きにおすすめしたい。

でもやっぱり上巻のロストワールド的な世界はわくわくするからSF好きも読んでね。サスペンス好きは上中巻はがまんで下巻を楽しんでね。要約:みんな読んで。

最後にラストのネタバレ。これがいいたくて感想かいた。(↓反転)
主人公をふくむ人間たちの描写が少ないことに違和感があったので、主人公たちは別の生物の進化形で人間とは似ても似つかぬ姿をしていて、じつはバケネズミが本来の人間だったという叙述トリックだと考えた人はきっと私以外にもいる。(両方とも人間だったら同じ種どうしの攻撃はできない設定に矛盾するし、と思っていたらオチなにそれひどい(T_T)
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羽根田治『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』

トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)いつのまにか『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』が文庫化していたんだ! そういえばあのツアー会社どうなったんだろう、と検索してみたら現在進行形でまたやらかしていてなんかもはや笑うしかなかった……。しかも同パターン遭難じゃねーかよ!

北海道の夏山で8人亡くなったトムラウシ山遭難事故。この事故が起こった2009年7月ごろ、Remember11の考察ネタを拾うために山岳系の小説やノンフィクションを大量に読みあさっていたのがなにを隠そうこのわたし。

ドキュメント気象遭難しかもちゃんと読んでいたんですよ。『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』をメインで書いている羽根田氏執筆の『気象遭難』 この本の内容も、はっきりおぼえていました。2002年、トムラウシ山で遭難があり、低体温症で亡くなった方がいることを。

この本を読んだすぐ後に大量遭難事故の一報なんだから背筋凍った。しかもこれまた同パターンだったんだよね。つまりは2002年の事例と。こういうわけで、私は登山はしないしとくに興味もないけど、この事故のことは一生わすれられないと思う。しかも文庫化に気づいたグッドタイミングでまた例の会社がやったみたいだしさらに印象が強まったではないか! みたいな。

当時マスコミでは「体力がないうえ山を甘く見ている中高年がうんぬん」という論調もあったけれど、それが正しくないことはこの本を読めばわかります。この登山メンバー少なくとも絶対私よりも元気な人たちばっかだわ。

私がその場にいたら還暦こえたおじいちゃんおばあちゃん捨て置いて真っ先に死ぬ自信ある。私が体力ないのもそうなんだが、「こんな雨の中登れるか! (18人は下山するとしても)オレは残るぞ!」なんてフラグセリフ言いだせないし。ちなみにこれ生存フラグだから間違えないように。ちなみに実際にも「俺は生きて帰りたい!」と仲間を見捨ててフラグを立てた人が生き残ってたりする。

すべてが終わったあと第三者が見ると、「こんな状況で下山したら死ぬに決まってるじゃんこいつらバカじゃね?」と思えるようでも、自分がその場にいたらこんな状況で下山すると思ってしまうのがツアー登山、もっと一般化すると集団行動のおそろしさ。

そして一度間違って下山するという判断を下してしまったらもう最後になってしまう、それが低体温症のおそろしさ。その判断は、間違いつづけてしまいます。脳が動かなくなってまともな判断ができなくなってしまうのが低体温症なのだから。(といってもこの事例の場合、遭難メンバーが下山する日にさらに次のパーティーが来て小屋をつかう予定だったそうで停滞という選択肢自体ができなかった可能性がなきにしもあらず)

ただ、台風のような雨風のなかで判断力すら失っておかしくなるというおそろしい状況のなかで、頑張って仲間を助けながら下山しようとした、という人がたくさんいたのはすごいことだと。

私が最初にこの事故の報道を追いはじめたときは、「なんでこんなバラバラに死んでるんだ、ひとりひとり勝手に下りたのか……」と身ぶるいしたけど、情報が揃ってくるととそうじゃないことがわかった。どうしようもなくて、しかたなかったんだよ。

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』 登山しない人にも良質なノンフィクションとして、集団におけるリスクマネジメントの書として、おすすめ、です! 無料で見られる「トムラウシ山遭難事故調査報告書」(pdf)もあわせてどうぞ。

読み終わったらこれまたまた同パターンの小説『八甲田山死の彷徨』を読むとさらに寒くなれます。(当時Remember11考察のために読んでいた小説のひとつ)

最後に。山で死ぬと2ちゃんねるの「パンパカパ~ン♪ また死にました」っていう伝統あるスレに載っちゃうから山で死んではいけません。「山で死ぬのはくだらない」ゆえにいわゆる不謹慎なタイトルになっているとかいないとか。
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貫井徳郎『慟哭』『夜想』

慟哭 (創元推理文庫)加納朋子の『無菌病棟より愛をこめて』が思いのほか評判いいので、なぜかその前に旦那の貫井さんの作品を読む。

そこですごくいまさらだと自分でも思うのだけど、彼のデビュー作『慟哭』にひとこと申しあげたくなった。

「この作品はミステリ読みほどだまされる!!!」


だってだって。(以下ネタバレ反転)

じつに普通に佐伯と「彼」が同一人物だと思いながら読みすすめる。
 ↓
彼が松本と名乗って衝撃を受ける。
 ↓
え。え? この二人もしかして別人だったの!?
 ↓
でもいやこれ絶対に同一人物だよなあ。
 ↓
そうか同一人物にみせかけて別人という叙述にちがいない!


とあさっての方向に行き、見事にだまされてしまいましたよ!


おまわりさん、あの人が、ミステリを読んでいるのに「なんだそのままか。つまんないな」って(ry

夜想 (文春文庫)トリック以外でこの作品でよく語られる新興宗教にハマる心理を知りたいのであれば同作者の『夜想』を読んだほうが素朴かつリアルで優れていると思う。

そして、『慟哭』のもうひとつのポイントである警察内部の権力争いなんかはほかにもっといいものを描く作家がたくさんいるような気がするし、いまさら『慟哭』をすすめる理由はあまりないかな。

にしても、本の広告に「衝撃のラスト!」「どんでん返し!」とか煽りつけるのほんとやめてほしい。これだけで私はオチの想像がついてしまって、なんだそのままか、つまんないなって(ry

一方で、予測できるからこそ途中つまんなくても「いや、これあれだからもしかしたら最後まで読んだら評価がひっくりかえるかも!」とオチまで読む心理があるからこまる。そしてつまんないオチだと怒り3倍増だけどね。メフィスト賞受賞の某アレのことですよ!

『慟哭』はトリック以外はなんだかんだで楽しめたので私は満足です。でもやっぱり私は『夜想』のほうをすすめる。いまの読者ってミステリ専門じゃなくても勘のいい方多いし、「『慟哭』のトリックわかりやすすぎつまんない!」で貫井作品投げちゃったらそれは損だと思うから。
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重松清『その日のまえに』『流星ワゴン』

その日のまえに (文春文庫)自分や近しい者が病気で死を意識しなければならなくなったとき、どう向き合うかというおはなし。短編集。

病気と死を扱えば話は重くなり考えさせられるのはあたりまえ、ありきたりであるという感想はとても理解できる。

一方でありきたりで身近にもないとはいえないからこそ考えさせられるという感想もあるのも当然。ただ、よくあるのは「考えさせられるけど、自分にはそんな経験は一度も無いし実際そうなったらどうするかはやっぱりわからない」ということ。

私の感想をいいます。小説としてはありきたりな話だと思います。評価は高いようだけど名作かときかれたら「?」マークがつきます。それでも胸に響くのは否定できない。そして、実生活のほうで「こんご二度目を経験することがあってもそのときどうするかはやっぱりわからない」ということです。

経験者がこういうストーリーに対してどう考えているのかはかなり興味がある。もっとも、「たとえ経験者でもそんなの人によってちがうに決まってるじゃないか」といわれたらそのとおり。人生いろいろ、人のこころもいろいろ。それでもやっぱり気になる。そういうもの。

「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」のコンポが好きなひとが多いようだけど、私は「ヒア・カムズ・ザ・サン」に一票。

ところでこのブログの話題に関連して。私、「家族愛」をテーマとしている楠葉監督の劇場版ドラえもん作品わりと好きですよ。(周囲では評判わるいが!)

血がつながっていようがどーしようもないことがあるのは理解しているしそっちもそっちで経験者だし最終的には「自分以外は他人」というドライな考えしてる人なので、「家族なら助け合うべき」という意見に基本的に反対の立場であると付け加えたうえで、楠葉作品好きですよ。わさドラはもともとメイン5人一家が優しくなったという印象が強いしね。

流星ワゴン (講談社文庫)重松作品で評価の高い『流星ワゴン』が好きじゃない理由はそれだな。家族ならわかりあえるという思想は嫌いなので。それなら『その日のまえに』くらい仲のよい家族を描いてくれていたほうがすっきりする。

それに、『流星ワゴン』は「さんざん過去は変えられないと煽っといてそれ!?」ともにょるオチ。一方『その日のまえに』はテーマ的には良い意味で予定調和。私はこっちのほうが好き。
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この米澤穂信がすごい! 分野別書籍リスト

米澤穂信はハズレの作品はないんですが、好き嫌いわかれる作品が多いと思います。最初に嫌いな作品が当たって二度と読まなくなる、なんてことになるともったいないと判断し、特徴別に作品をまとめてみることにしました。(かなり主観混じり)

私的おすすめ度とミステリー度をC~A+で付けてみました。私的おすすめ度はあくまで私の好みに合うかどうかなのであまり気にしないでください。私はラノベ苦手なのでラノベ系の作品はおすすめ度低めになります。

ミステリー度ですが、私は本格ミステリーあまり読まないので結構とんちんかんかもですすみません。もちろんミステリー度が低いから駄作ということはありません。むしろ私は低めの作品が好みです。

1.ライトノベル系作品

氷菓 (角川スニーカー文庫)  愚者のエンドロール (角川スニーカー文庫)  春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

まずは私が苦手とするこの3作から。

『氷菓』『愚者のエンドロール』は「やらなくていいことはやらん」という省エネ主義の主人公折木奉太郎とその仲間3人が所属する古典部で繰り広げられるミステリー、通称古典部シリーズの1作目と2作目。

『氷菓』 おすすめ度 C+ ミステリー度 B

古典部1作目の『氷菓』はいわゆる「日常の謎」系ミステリーです。北村薫や加納朋子が有名ですね。謎はいろいろ提示されますが、古典部部雑誌の『氷菓』というタイトルの謎が中心となります。もちろん殺人事件は起こりません。

『愚者のエンドロール』 おすすめ度 C ミステリー度 A
古典部2作目『愚者のエンドロール』 これはミステリー映画の犯人当て。前作よりもミステリー度が上がります。ホームズネタも出てきますので古典ミステリー好きはたぶん喜ぶ。ただ、「ホームズしか知らない脚本家が(ry」というオチでたぶんずっこける。

『春期限定いちごタルト事件』 おすすめ度 C ミステリー度 B
こちらはじみーで目立たない平凡な「小市民」な高校生活を目指す小鳩常悟朗と小佐内ゆきが活躍する、通称小市民シリーズの1作目。こちらも「日常の謎」系の話ですが、『氷菓』よりもさらにこじんまりとしていて少し印象が薄すぎるかな。

この3作、ライトノベルに抵抗が無く、かつミステリーが好きなら積極的に読んでいいと思います。ただ、主人公が気取った感じで心情描写がちょっと回りくどく、人を選ぶ印象。このなかのどれか1作読んでみて、同じ理由で苦手としたならば他は回避してもいいかもしれません。

が、シリーズもののせいで、これには罠が待ち受けているという。ということで次いきます。

2.癖の抜けたライトノベル系作品

クドリャフカの順番 (角川文庫)  遠まわりする雛 (角川文庫)  夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

ここからもやはり古典部・小市民シリーズ。文章の癖は1.より抜けているので人を選ばなくなっていると思います。古典部・小市民のキャラは好きだけど文章がいまいち、これずっと続くの? と心配な方でもこれらは安心して読める作品が多いかと。

『クドリャフカの順番』おすすめ度 B ミステリー度 B+
古典部シリーズ3作目。前作のホームズに続き今度はクリスティー。賛否わかれるかもしれませんが、古典部シリーズは癖の弱いこの作品から入ってさかのぼるのもいいかもしれない? と思ったり。キャラ達の意識の変化がつかめないって意見も出そうだけど、それに関しては4作目がポイントだからまあいっか、と。

『遠まわりする雛』おすすめ度 B+ ミステリー度 B
古典部前3作をすべて読んだ後に読むことを推奨します。そして、評価を下すのはラストを飾る表題作を読んでから。米澤穂信、人物描写が本当に上手くなったと思わせる一作。千反田さんはいかにもラノベにありそうなエキセントリックなキャラで新鮮味ないよなーなんていままで思っていてすまんかった。

『夏期限定トロピカルパフェ事件』おすすめ度 B ミステリー度 A
こちらも前作の春季限定~を先に読むこと推奨。単独で読んでも問題ないですが、前作を読んでいると読後感が変わると思うので。前作でおまけ感があったミステリー部分も今作ではかっちりと構成されています。悩んだけどミステリー度はAで。

『秋期限定栗きんとん事件』おすすめ度 B+ ミステリー度 B
同じく前作の夏期限定~を読んでから。こちらは単独で読まないほうがいいと思います。これはミステリーのロジック部分よりも人物描写の巧さに舌を巻く。なんとなく怪しいが、動きが明確に描写されないある人物、もはやそれがミステリー。

ポイントは単独で読んでも大丈夫な『クドリャフカの順番』です。この作品が合うならば、ライトノベルが苦手でも1.に戻って、そのあと『遠まわりする雛』『夏期限定トロピカルパフェ事件』に行く価値はあるかな、と。

ちなみに『遠まわりする雛』『夏期限定トロピカルパフェ事件』の終盤は次の「3.空疎なジュブナイル作品」に近いので、3.が好きならそこも考えておくべきかも。

3.空疎なジュブナイル作品

さよなら妖精 (創元推理文庫)  ボトルネック (新潮文庫)

『さよなら妖精』おすすめ度 A+ ミステリー度 C
米澤穂信の3作目であり出世作。そして米澤長編で私的ベスト。ライトノベルのジュブナイルな雰囲気は残っていますが、その雰囲気はクール。

古典部シリーズのすかしたキャラが苦手であればこちらをぜひ。まあ、こっちの主人公がすかしてないかって聞かれたらそれは否定するけど。

『ボトルネック』 おすすめ度 B ミステリー度 C
なぜか自分の存在しない平行世界に行った主人公が元の世界との違いを探っていくSFミステリー。でも、SFミステリーの設定は作品を描くうえでの背景ととらえて、悩めるジュブナイルとして読んだほうがいいかも。正直、とても解説しづらい話。私は作者が何を言いたいのかよくわからなかった。嫌いではないですが。

4.本格ミステリー

犬はどこだ (創元推理文庫)  インシテミル (文春文庫)

『犬はどこだ』 おすすめ度 B+ ミステリー度 A
悩みましたがここに入れます。人探しと古文書解読がかかわる探偵ミステリー。ただ、ハードボイルド系の割には文章が古典部の延長線上にあって若干子どもっぽい印象もあり? 少し気になっただけなので古典部苦手でも大丈夫ですが。ちなみに後半は結構鬱で、『ボトルネック』「玉野五十鈴」が好きな方に合いそう。

『インシテミル』 おすすめ度 A ミステリー度 A+
ミステリーマニアな米澤穂信が描く直球ミステリー……というか古典ミステリーのオマージュというか。『そして誰もいなくなった』系のクローズドサークルものです。米澤作品のなかでは異色作かも。ありえない設定や説明の薄さはメタミステリーを意識した米澤穂信のお遊びでしょう。あえてつっこみません。おすすめ度はA。

5.Story Sellerシリーズ

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫) Story Seller (新潮文庫) Story Seller〈2〉 (新潮文庫)Story Seller〈3〉 (新潮文庫) 小説新潮 2011年 05月号 [雑誌]

『儚い羊たちの祝宴』 おすすめ度 A ミステリー度 C
雰囲気がStory Seller 1,3,2011の作品に似ていて、1の「玉野五十鈴の誉れ」が再録されているということで変則的にここに入れます。すべて昭和の雰囲気、ついでに言うと鬱オンリーです。鬱OKならどうぞ。

「玉野五十鈴の誉れ」(『Story Seller 1』) おすすめ度 A+ ミステリー度 C
お嬢様と使用人という関係のなかで揺れ動く、女性どうしの友情物語……でいいのだろうか。これは五十鈴の描き方が巧すぎる。文句なしA+ ちなみに『Story Seller 1』は名作揃いなので、「玉野五十鈴の誉れ」一作目当てに買うのも……なんて迷う必要ないですよ。おすすめアンソロジーです。


ごめんなさい2,3,2011の作品感想も書きたかったんですが力尽きました。ひとことで説明するなら2の「リカーシブル――リブート」は古典部シリーズとボトルネックの間くらいのジュブナイル作品。しかし、これはおすすめできません。未刊行の長編作品の冒頭だったらしくぜんぜん完結してません。

3の「満願」と2011の「万灯」は「玉野五十鈴」な雰囲気が好きなら読んでもOKだけどStory Seller 3,2011全体の出来を考えるとこれ一作目当てに買うのは微妙? という感じではある。最終的には 3,2011のなかではいちばんおもしろかった、とだけ。

しかし、最初は嫌いだった古典部シリーズが巻を重ねるにつれて、わたし、気になります! となるとは2作を読んだ段階では夢にも思わなかった。一方で『さよなら妖精』を読んでしまうと、古典部や小市民にもこういう変化球が来るかもと思うと読むのやめられなくなって。実際そう変化してきてるし。これどんな罠。東京創元社のK島氏め!

でも、妖精をのぞけば好きなのはやっぱりStory Sellerシリーズ群だなあ。最初にStory Sellerに出会ったのは運命だったらしい。新潮さんに感謝。ただ、Story Seller自体は巻を追うたびにいまいちになっていくのであれあれこれこれ。小説新潮Story Seller 2011作家群の道尾秀介と米澤穂信は良心だったのだ。

関連記事:
『さよなら妖精』
『小説新潮 5月号』(「Story Seller 2011」)感想
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J.G.バラード『殺す』

殺す (創元SF文庫)バラードってこんなのしか書かないの(;´Д⊂) 私がP.K.ディックを読むときはいつものPKDを求めているように、バラードファンはいつものバラードだと安堵するのでしょう。

でも私、バラード読んでるとなんか生理的に気持ち悪くなるんだよなあ。創元表紙の美しいイメージと破滅的思想が混ざったドロドロした感情が直接脳の嘔吐中枢を刺激するとでもいうか。バラードあんま好きじゃないんだけど、すごいひとではある。こんな作品書くひとそういないだろ。

しかし今回紹介する作品、まずあまりにどストレートな邦題にびびる。ちなみに原題は"Running Wild" タイトル付けづらい話ではあるんですが、どっちも微妙かも。

そんな『殺す』、東京創元社のくせに630円とお手頃だよ! ページ数なんて見ないでそのままAmazonカートに入れてポチりましょう……とはちょっといえないなあ。内容においても。

いえ、あいかわらずのMadなバラードです。狂ってます。それは間違いない。

アイディアの根本はバラードらしくすばらしいものなんですが、それが昇華できていない印象ですね。ページ数が短すぎるのもあいまって、アイディアだけを見せられている感じ。

25年前(1988)ではこの話はたぶん衝撃的なものだったと思います。ですが、いま読んだところでどうかなあ? アイディア・問題提起のみ終わっているこの作品だと新たに得るものがないような気がします。バラードであればこの3倍書いてもっと、もっと深い話にできたはず。もったいない。

そういうわけで狂った世界にはまったバラードマニア以外ならあとまわしで問題ないと思います。逆にいうと安心のバラードなのでマニアは読んでいいと思います。

マニアじゃない方は『楽園への疾走』でもいかがでしょうか。これは出来がよかった。:『楽園への疾走』感想

あと感想書いてないけど『千年紀の民』もなかなか。『殺す』のテーマ(らしきもの)が気にいった方はこっちのほうが楽しめるかも。ちなみに『楽園への疾走』も『千年紀の民』もバラードにしては読みやすいので初期バラードが苦手な方にもおすすめできます。
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真保裕一『最愛』……と真保作品おすすめ

最愛 (文春文庫)つねづね思っていたのですが、「ファンの怒りを引き受ける立場が必要だった」と語る劇場版ドラ脚本の真保裕一さんはたいへん空気を読めていてすばらしい。

現に新開拓史・人魚大海戦なんて真保さんを批判する方も見受けられたしもう大勝利じゃないですか。アニメは集団作業しかも映像だから文字で書かれる脚本だけで作品の出来が決まらないことなんて常識なんだけど。しかもその脚本にもスポンサーやプロデューサー・監督の意思がはいってるわけだし。

残念ながら私は情強なので真保さんの思惑にははまりません。それより、新魔界大冒険の年に『最愛』(と『追伸』)を出した真保さんの責任を追及させていただきます! 誰も触れてないけど、どう考えてもこっちが問題だろう。

私は真保ファンなんですよ。2007年の『追伸』までの作品は全部読んでるし。25作ですよ、25作。

そのなかでも『最愛』はトップ級にひどい。普段はつまらない作品のレビューは書かないのだけれど、初真保でこれを読んだ方が他の真保作品を避けてしまうとアレなのであえて書いてやる!(最後に真保作品のおすすめをあげるので興味ある方は最後を読むだけでかまいません)

この作品、最初はとっても読ませます。主人公が頭に銃弾を受けて意識不明になった姉と病院で再会し、いままで姉は何をしていたのか? と探るお話です。これ真保作品のテンプレートでもあります。(何かを探し求める話が真保作品には多い)

が、立ち読みで序盤に興味をもった方でもこれを買ってはいけません。展開はご都合主義のオンパレード、まったく感情移入できない登場人物、そして悪い意味で驚愕のオチ。

ダメです。この本を買ってはいけません。

まったく……この話のキーマンである主人公の姉、読者からすればどう考えても変な人なのですが、「姉さんは強い人だ!」とものすごく曲解する主人公とか……もう付き合ってられません。トリックの一種かなにかだと本気で思ったよホント。

いや、これ間違いなく真保さんが書いた作品というのはわかるんですよ。真保さんの悪いところほとんどすべてが爆発した作品だから。主人公がストーカー気質とか思いこみが激しいとか女性の描き方が変とか。

他の作品ではそれが不快にならない程度に抑えられていたり、それ以上に良い部分があるから気にならなかったりするんです。しかし『最愛』はすべてにおいてダメだっただけにどうしようもありません。

運悪く『最愛』に引っかかってしまったあなた。『最愛』にも長所がありました。文章があいかわらず巧い。読ませる。最後まで読ませる。

なんだかんだでちゃんと最後まで読んだ方、多いのでは? そんなあなたは真保ファンになれる資質があります。真保さんの作品はだいたいこうなので。(次作『追伸』は文章いまいちだった……)

奪取(上) (講談社文庫)私からは『奪取』をおすすめします。真保さんといえば『ホワイトアウト』が有名でたしかにあれもいい作品なんですが、私は『奪取』のほうが好みですね。上であげた真保さんの欠点がほとんど出ていないし、なにより全体的に明るい作品で読んでいて楽しい。

『奪取』『ホワイトアウト』のほかは、『取引』『ダイスをころがせ!』『栄光なき凱旋』あたりかな。

真保さんは初期作品で綿密な取材をした作品を書いているので、取材力に魅力を感じたのであれば『奪取』以前の作品を全部読んでみてもいいかも。(ディック・フランシスが好きならなおおすすめ) 『奪取』よりあとは玉石混交の印象です。『ダイスをころがせ!』はもう少し評価されても良かったと思いますが。

それと、『奇跡の人』はかなり『最愛』に近い作品なのでどちらか嫌いな方はもう一方を読まないように。これ忠告。

『最愛』のAmazonレビューを見ると、ファンだからこそがっかりしてる方が多いみたいなんだよなー。わかるだけにつらいです。泣きたいです。

映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険 7人の魔法使い【ブルーレイ版】 [Blu-ray]最後に余談。ドラえもん監督の寺本幸代ファンである前に真保ファンとして断言する。新魔界大冒険の美夜子さんが魅力的なのは間違いなく寺本さんの功績。真保さんではあんな女の子描けない。ええもう、絶対に。

新魔界は私個人が寺本監督好きという理由で大プッシュしますが、真保ファンには合わないかもしれません。ちなみに真保さんは『新・宇宙開拓史』『人魚大海戦』でも脚本を担当しています。この2作も真保的な見どころはとくにございません。

とっても楽しいSF小説ベスト5 -2011-

今年後半はあまり本が読めなかったけど、SFベストえらぶよー! 今年出版された本ではなく今年私が読んだ本、ということでおねがいします。


第5位 有川浩『図書館戦争』

図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)5年経ってやっと文庫になった。いまだに売れていたからずっとハードカバーで通すのかと思ったよ。

とりあえず設定がトンデモ。私も初めてこの設定を聞いたときは、このひとヘンなんじゃないかと思った。が、そんなトンデモ設定の中身はとても現実的。あまりにリアルで読者を鬱にさせるのが有川浩。その鬱が一種のギャグになってる。

あ、いや、鬱だけじゃなくて恋愛要素もいっぱいあるよ。うん。


第4位 瀬名秀明『BRAIN VALLEY』

BRAIN VALLEY〈上〉 (新潮文庫)これって小説ということでいいんでしょうか。上巻は脳関係の論文を読んでいるような気分に。

まあ、瀬名秀明の本気は下巻だよ、下巻。こちらも『図書館戦争』と同じく超トンデモ作品になってしまいます。下巻のクライマックス、「神」についての真実が明かされたとき、トンデモすぎて私は笑ってました。

こういう作品もっと書いてほしかったんだけども、最近の瀬名さんは完全真面目モードでなんだか残念です。作風が変わっただけともいう。


第3位 『結晶銀河 年刊日本SF傑作選』

結晶銀河 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)2010年発表の作品を集めたアンソロジー。どれも名作にはちがいありませんが、3位の座は白井弓子「成人式」および長谷敏司「allo,toi,toi」にささげます。

白井弓子は粗削りながら「生」というテーマをもって読者の感情に訴える一方、長谷敏司は完璧な論理をもって読者の感情を操る。その感情って、本当に自分のものかと。(……という話だと思う)

表現のしかたがまったくちがう2人が同時に読める『結晶銀河』 最高!


第2位 上田早夕里『華竜の宮』

華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)今年、もうひとつとんでもない作品読んだので2位になっちゃいましたすみません。

日本SF大賞にまどマギがノミネートされて話題になるなか、「SFファン以外誰も読んでないけど大賞はこれ」と言われて前評判通りの受賞です。なんか微妙に悲しいですが、おめでとうございます。……実際どのくらい売れてるんでしょうかね。

白井弓子の作品と同様、テーマは「生」と受け取りました。それを壮大な舞台、しかも二段組み600ページを用いて処理したのは、お見事。そして、出版を決めた早川書房にも、お礼がいいたい。


第1位 シオドア・スタージョン『輝く断片』

輝く断片 (河出文庫)好きな作家を3人あげなさいと聞かれたら、皆さんはどう答えますか? 私ならシオドア・スタージョン&藤子・F・不二雄&西川真音の3人かな。スタージョンはいまのところ筆頭にあげる。そのくらい魅力のある作家です。

しかし、その魅力を語れといわれると、困る。ひとことでいうなら、「ことばで世界を歪める人」

スタージョンが描くストーリーはじつに普通です。ひねったプロットなんてありません。でも、彼はことばの魔術師。普通にして見たことのない世界を描きます。ありえない。



SFとは関係ないですが、今年後半は電子書籍の話題に気を取られてしまった。クリスティー全集電子化とは、ハヤカワめもっとやれ。ロバート・B・パーカーとかディック・フランシスとか。

結局Amazon Kindleはまだ先のようですが、まさかの楽天Koboが参入決定したし、紀伊國屋Kinoppyもかなりがんばっているし、来年が楽しみです。頼むよー。
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