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瀬名秀明『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』

小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団ドラマニアはニヤニヤ楽しむために買い。SFファンを含むそのほかの方は回避でOK。小説としての出来はあまりよろしくないと思います。

瀬名さんが藤子Fさん大好きなのはとってもよくわかりました。もちろん前から知ってるけど、それが裏打ちされた作品。

他藤子作品からゲストがでたり、リルルのはだかをしつこく描写していたり、他大長編のエピソードを取り入れていたり、ついでにしずちゃんだったり、どんだけよ。まあ、わかる私も私だが……。

でも、それが物語に生かされているかというとNo。「俺知ってるぜ!」と言いたい感満載でむしろ話の流れを阻害しているかと思います。

藤子Fとはあまり関係ない部分でオリジナルの部分は、2点。
・他作品からのゲストがからんだ後半のコンサート。
「家を空けていて親が心配しているのでは?」という発想から生まれた展開なんですが、なくても話通じます。単なるつけたし。

あとコンサートの部分、筆力足りてないです。ここは映像化すべきもの。

・四次元ポケットや鏡面世界のSF考証がやたら細かい。
「四次元空間は、(中略)分子反応は平衡状態を維持したまま」(p244)
「鏡面世界に入り込んだ知性主体に残された余剰のベクトルはy軸であり」(p90)
のようななんかすごいことが書いてあります。部分的にはハードSF。

しかし、小説版鉄人兵団の構成自体はハードSFでもなんでもなく、基本的に原作そのままのファンタジー寄りな話なので、やっぱりつけたしレベル。むしろ浮いてる。だから、SFファンにはすすめません。

この原作そのままというのがはっきり言って致命的。コンサートとSF部分が物語全体としては機能してないから、瀬名さんの原作に対する解釈が見えてこない。

一応補足させてもらうと、おそらく、瀬名さんが書きたかったのはシンパシーにとどまらないエンパシー。「リルルが女の子の姿をしているから、勝手に同情しているだけ」(p175)や「地球人と共感(シンパサイズ)」(p254)というセリフ、そしてp307で博士がリルルに語ることばでテーマをまとめたと私は解釈しました。

その問題提起はとてもよいです。が、結局原作のままだからそのテーマが深まらずに終わってしまった印象が強い。

一方で、映画の新・鉄人兵団は寺本さんの解釈がはっきりと見えた。これは、思想は違うが根本的には変わらないどうしの異文化コミュニケーションの話だと。だからよけいに小説版がスカスカに思える。

ついでに文章についていわせてもらうと、文章の流れなさが異様に気になったんですけど。特に気になるのが文末に変化がないこと。「~ていた」という文末が5回続くってなんですか。(p216)

それと、リルルは心情描写不足。せっかく小説というメディアでだすのだから、ここはきちんとやってほしかった。

文句ばっかりですが、文句いいたくなりますよ。だって知ってるから。似たようなテーマで瀬名さんはもっとすごい作品を書けると。ということで推薦。『NOVA3』収録「希望」

神・9.11・感情移入・共感――などなど、鉄人兵団のエッセンス目白押し。そういえば、小説版ドラp58の世界貿易センタービル崩壊の描写はゼロ年代SF、具体的には伊藤計劃の影響か。もっとも、新鉄人もそれっぽかったし瀬名さんがSF作家じゃなくても9.11のように描いたかな。

それと、『パラサイト・イヴ』『BRAIN VALLEY』『BRAIN VALLEY 研究序説』おもしろかったです。『ロボットとの付き合い方、おしえます。』ロボットを考えることは人間を考えることととらえているのが瀬名さんらしくていいなと思いました。『世界一敷居が低い最新医学教室』そのうち読もうと思います。文系のための科学本棚で薦められていた『きちんとわかる巨大地震』手に入りそうなのでこれも読みます。角川はしょうがないですが新潮の本も絶版多くて困ってるんですけど。『サイエンス・イマジネーション』読みたいんですが文庫落ちとかないですよね。しませんよね。仙台文学館の特集展楽しみだったのに残念でした。これからノンフィクションやめて小説に専念するということで期待してます。

以上。

とか言ったら「本当の読者はどこにいる?」と瀬名さん大まじめに悩むのだろうか。検索してみると、他では小説版ドラの評価が高いようだからなおさらね。まあ、もしここを読んでいらっしゃったら悩んでください。

ということで、次こそ『ブリキの迷宮』を原案にして神林長平先生にノベライズさせるのだ! 全然ドラえもんじゃなくなると思うけどねっ。

ロボットもので残りの『ブリキの迷宮』と『ロボット王国』は神林長平と菅浩江でわけあうべき。菅先生のロボット作品は名作だと思うの。それとオリジナル枠で有川浩。『空の中』風のジュブナイル。これだー!

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