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上田早夕里『華竜の宮』

華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)こんなときこそ、この作品のレビューをせずにどうする。

阪神・淡路大震災の起こった1月17日に上田先生がTwitterで少しだけ語り、27日にあのMy Merry Mayの松岡由貴さんが朗読劇『ドッカンぐらぐら』の舞台に立ち、2月22日にニュージーランド地震。いやはや、この作品は、読まなきゃなと。

読んでよかったです。それから10日後くらいに、震度6弱の地震に巻き込まれて2日ほど停電してたとき、私のバイブルMy Merry Maybeとともに支えとなった作品でした。ということでレビュー。

「すごいな上田早夕里。これほどスケールの大きな小説を書く作家になるとは思ってもいなかった。いまはただただ、感服である」北上次郎:読売新聞書評

まったくだ。デビュー作の『火星ダークバラード』からこんなんなるなんて想像できるわけがない。

ところが、これ、やっぱりというか、「火星ダークバラード」って作家になるため及第点を取るためにいい子振って猫かぶっていただけで、本書(『魚舟・獣舟』:引用者注)で、才能が全面に開花。
魚舟・獣舟:個人的読書

そうかっ! そういうことだったのかっ。納得した。

『SFが読みたい! 2011年版』で国内ダントツ第1位なこの話をとっても簡単に説明すると、人類が遺伝子操作でいろいろ変わっちゃって、いろいろなひと、いや生物がそれぞれ生きる時代に、各国でいさかいが起きる。それを止めるために外交官の青澄が奮闘する物語。

……地味だ。確かにあらすじ自体は地味かも。でも、スケールはハンパない。これと世界観を同じくする短編「魚舟・獣舟」をお読みになった方ならわかるはず。

私はプロローグだけを読んだあと、いったん読むのを止めて表紙を10分くらい見つめてしまいました。こんな凄い世界をこれから存分に楽しめるのかと!

話の筋はさっき説明したとおり。でも、その過程でいろいろなことを考えさせられた。命って何か。人間って何か。進化って何か。

でも、作者が一番言いたかったのは命の大切さ、かな。私の大好きなMy Merry Maybeと同じ。

私はMy Merry Maybeに感激してロボットものをいろいろ読んだけど、どれもぴんとこなかった。で、『華竜の宮』 共通の設定は、仲間にロボットが出てくるくらい。あとは何もかも違う。でも、両作品の底に流れるのは「生きる」こと。

これかも…! 初めてそう思える作品に出会えたような気がした。

上田さんはマイメリプレイしてないと思うし、当然マイメリ愛なんてあるわけない。それでも、私はマイメリファンとして『華竜の宮』が大好きになった。

私の大きな評価ポイントはオチ。いろいろ問題になっているこの時代によく書いたと思う。正直なところ、素直に納得はできない。そこまでして生きる必要あるのか? と。

でも、これは書いたこと自体を評価すべきだと。だって、こういうのごまかす作家がものすごく多いんだもん。命をテーマにしたのはいいけど、最後は悪役が常識的に考えてやばいことして捕まって終わりな小説。もしくは「結論:わからない」な小説。

私はこういうのが大嫌い。テーマに掲げた以上ちゃんと書けと。そもそも、賛否両論な結末のほうがおもしろいから。納得はできないからこそ、考えさせられる。物語なんてそんなもの。伊藤計劃でも同じことを思った。

この作品を書いた上田先生が凄いのは言うまでもないんだけど、個人的にもっと凄いと思うのは異形コレクションで「魚舟・獣舟」の編集を担当した井上さん。

井上雅彦さんは、SFやホラーやファンタジーの新人がデビューすると、すぐに作品をチェックなさっているようです。(中略)私は「進化論」が回ってくるまで「待ち」の態勢になっていたそうで
上田早夕里(@Ued_S)/2010年04月21日 - Twilog

この話を聞いて、私に編集者は向いてないと思った。たしかに、『火星ダークバラード』の「環境への過剰な適応」は心に残るセリフだったけど、これをヒントに進化論テーマの作品に誘うとか絶対無理だ。

『華竜の宮』 読め。いまこそ。

魚舟・獣舟 (光文社文庫)
魚舟・獣舟 (光文社文庫)『魚舟・獣舟』もよろしく。読む順番はどちらでもいいです。発表は魚舟→華竜の順。ただし、構想は華竜のほうが先だったとのこと。私は『魚舟・獣舟』は表紙だけで買う価値があったと思う。

私が『華竜の宮』で一番印象に残り背筋が凍ったシーンは、獣舟の巣から人間の子が出てきて……、のところ。その怖さ、短編集でも健在。
タグ: 本・SF
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