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鉄人兵団のオチは反則

前に書きましたが、私は鉄人兵団のあのオチはやってはいけないことだったと思っています。なぜなら、人間の歴史の否定に繋がるからです。

あの解決法は簡単に言うと「ロボット作りそこなったから、もういちど作り直すね。失敗作のロボットたちバイバイ」ということです。ロボットだからってそれでいいのでしょうか。(キリスト教ではOKなのかもしれませんが) それならドラえもんだってスクラップにされてもいいということになりかねません。

そして、さらなる問題は作中で「ロボットの歴史=人間の歴史」と断言されていることです。つまり、上の「ロボット作りそこなったから、……」の「ロボット」という語はそのまま「人間」に置き換えることができるということになります。

人間は昔から今までずっと争いを続けています。だからって失敗作として消されるのは私は嫌です。「やはり歴史っていいほうに向かって進んでいるんじゃないかしら。少しずつ少しずつだけどね」(『T・Pぼん』「奴隷狩り」)とF先生自身、人間を信じる発言をしています。

良くも悪くも今の自分を形成しているのは過去です。その過去から学んでやり直せるのが人間です。(メカトピアの)ロボットにはそれができないのでしょうか。できないのであれば話は変わってきます。このあたりはロボットの「心」論に関わります。

しかし、これは『ドラえもん』です。そんな夢も希望もない結論はないと思います。(SF短編なら別) 加えて、前にも言ったとおり「あたたかい心を植え付ける」というのはテーマとの齟齬を生じています。(「鉄人兵団のテーマの一つは「人間の心の複雑性」と私は取ってまして、「人間のあたたかい心」ではない」 ロボットに心はあると思いますか?  with My Merry May, again より)  そのように考えると、やはり鉄人兵団のオチは失敗でしょう。

もっとも、「初めからやり直し」はクローン技術などで現実に行われています。このあたりについては私の考えがまとまっていないので言及しません。難しい問題です。(じつは、この世界そのものが物好きな神様による壮大なシミュレーションゲームだったりして)

マイノリティ・リポート―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)
マイノリティ・リポート―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)
しかし、どんなオチがよかったのかと言われると。「人間に創られたことを知らないロボットたちが人間支配」と鉄人兵団に似ている作品に、フィリップ・K・ディックの短編「ジェイムズ・P・クロウ」(米1954)があります。

(もしかして元ネタそのまま? 日本オリジナル短編集『マイノリティ・リポート』の出版が1999年。F先生が原文読んでいたか、それ以前に雑誌などで訳されていたか。まあ元ネタっぽいけど当時翻訳されてなかった作品はほかにもあるし)

この作品は結構いい感じにまとまっているので鉄人兵団にも使えないことはないかと。詳しくはご覧になってください。


私より前にしかもわかりやすくオチの問題点を指摘した方がいらっしゃったので紹介します。

深読みすれば、遺伝子操作的な対策を連想させる、という意味では、逆に問題が大きい。
映画ドラえもん のび太と鉄人兵団 -Youtaful Days!

全然そっちに頭向いていませんでした。おっしゃるとおりだと思います。そっち系の話だと私は遺伝子というよりロボトミー、もしくはグレッグ・イーガン風に脳内化学物質でヒトの感情を操るようなものが思い浮かびました。うわかなり怖い。

もうひとつ、鉄人兵団は人間のメタファーという観点から深く考えている考察を紹介です。
非ニコマス:そして彼女は天使になる 大長編ドラえもん「のび太と鉄人兵団」について -すごろく妄想格納庫 (2が出る日まで)

鉄人兵団のテーマ・構成を端的にまとめていらっしゃいます。リルルのアイデンティティのあたりはいままで見たことのない考察で、非常に納得いたしました。正直これ以上コメントしようがないのでコメントは控えておきますが、すばらしい考察です。コメント欄もぜひ。(私の考察をこれまた端的に要約していただいて恐縮……)

ちなみにF先生の「解決を安易にタイムトラベルに頼ってしまった」という言葉はおそらくこちらかと。 →映画ドラえもんオフィシャルサイト(右の作者のことばをクリック)

私がいろいろ考えていて気になったのは、人間のりくつにあわない心ってなんだろうと。もともと人間の心は利己的で争うもので「あたたかい心」こそがりくつにあわない心なのか。それとも、無駄に意味無く相手を傷つけ、戦争をする心こそがりくつにあわない心なのか。それとも、もともと心に善悪は併存するものなのか。

まあ善も悪も人間の価値観基準(しかも人によって異なる)ですからこんなの考えること自体が無意味かもしれませんけど。でも考えてしまう。

……それにしても、やっぱりF先生は長編の構成がイマイチなのが多い気がします。安易な解決法が結構見られます。「ゴツゴーシュンギク」とかもはや開き直りすぎのような。F先生もしかしてプロット作っていないのでは!? 私はそれほど大長編ドラ好きではありません。やっぱりF先生は短編です。

続きを書いてしまった。今度は違う観点から。→続・鉄人兵団のオチは反則

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コメント

[C5]

ブログへの言及ありがとうございます。鉄人兵団は魅力的ですが、やはりあのオチはちょっとなあ、と思います。毎回期待していない劇場版ですが、2011年は、敢えて鉄人兵団を選んだということで、オチの部分が良い方向に変更されるといいなあと思っています。
本は最近はそれほど読んでいないのですが、オススメSFも趣味が似ていて参考になりました。特に「アイの物語」については、最後の一押しが押されたように思います。

[C6] 惜しい作品ですよね

こちらこそすばらしい感想を見せていただきありがとうございます。じつは書評のほうも拝見しています。

『アイの物語』は鉄人兵団のテーマと思われる「理屈に合わない人間ってすばらしい」というメッセージに真っ向から反発する素敵なお話です。鉄人兵団があえて(?)無視した痛いところを突いています。人間としてはちょっと切ないですが、「スゴ本」に挙げられていただけあって読みやすく良いロボットSFですよ。

もっとも、鉄人兵団はロボットSFというよりも、「言論の自由がない国vs自由がある国&ない国出身の活動家」のような人間の物語ととらえたほうがいいかなと個人的には思います。ロボット出す必要がそれほどあるとは思えないので。しかしそうなるとさらにオチがまずいことに。魅力的な物語なだけに惜しいです。やっぱりオチ変えましょう、寺本監督。

ちなみに、寺本監督は「のび太を愛した美少女」という話で美少女アンドロイドを容赦なく自爆させた方なので、解決法が変わってもリルルは結局犠牲になりそうな気がします。
  • 2010-09-01 18:30
  • shui
  • URL
  • 編集

[C9]

コメントするのが遅くなってしまいましたが、
拙ブログの記事をご紹介くださいまして、ありがとうございます。
こちらの記事からいろいろ新しいことに気づかされ、またとても楽しく読ませていただきました。
F先生のことばの出典までご教示いただきまして、恐縮の限りです。

やはり、「あたたかい心」と「りくつに合わない感情」をどう捉えるかというところが、この作品の鍵だと感じますね。難しいです。
 オチについて、リセットする以外の解決法がなかったということは、結局いくら個人個人に思いやりや優しさがあっても、それで対立を解決することはできないと示してしまったとも言えます。まあ、そんな現実があってなおそういうものが大事だと謳うのもまた、F先生らしさだとも思いますが。

自分の方のブログは一応他にメインにやっていることがあるので、あまりドラえもんについて書く機会はないと思いますが、今後もF先生とドラえもんの一ファンとして、shui様のあたたかく鋭い考察を楽しみに読ませていただこうと思っております。今後ともよろしく御願いいたします。
  • 2010-11-10 01:15
  • Vinegar56%
  • URL
  • 編集

[C10]

わざわざご覧いただき&TB受け取っていただきありがとうございます。上で挙げている『アイの物語』は鉄人兵団とは逆で「無意味に争う不合理な人間の心なんて不要」という考え方をしています。比べてみると結構おもしろいかもしれません。

リセットについてはご本人の「ほかに思いつかなかった」がいちばん素直な答えのような気がしないでもないですが。でもそれではこの話終わってしまうので考えないことにします。オチが安直という話は割と聞きますが、構成やテーマから突っ込んだ話はrararapocariさんの考察しか見たことがなかったので、今回いろいろ考えることができて楽しいです。

鉄人兵団に限らず、私はヒトとロボットの関係、そしてヒトとヒトとの関係を考える話が大好きなので、また何かありましたらよろしくお願いいたします。
  • 2010-11-10 22:48
  • shui
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  • 編集

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